【セミナーレポート】未経験人材を早期に戦力化する仕組みと文化醸成のポイント ~保険ネットワークセンター 宮宇地覚氏~

セミナーレポート

こんにちは、保険代理店向けに顧客管理システムを開発している株式会社hokanのメディア運営チームです。

本メディアでは、日々保険代理店の方々とお話をしている中で、よく話題に上がるお悩みをもとに、コンテンツを作成しています。

今回は、業界未経験の人材を採用し、早期に戦力化することに成功している保険ネットワークセンターの宮宇地 覚氏による「人材教育の仕組みや組織文化の醸成」について、2022年7月に開催したオンラインセミナー「従業員教育の肝は「文化醸成」宮宇地氏が語る創業からの取り組みとシステム活用」での講演内容をお届けします。

強固な組織化・人材育成において不可欠なセールスプロセスの『標準化』について

宮宇地氏と司会進行を務めた株式会社hokan深澤

▲宮宇地氏と司会進行を務めた株式会社hokan深澤

ー強固な組織化や人材育成を推進するには「標準化」が重要になりますが、
貴社では「標準化」について、どのように考えているのでしょうか?

宮宇地氏:保険会社から「組織化に注力してください」、「代理店でも人材育成を強化してください」などと言われている代理店も多いと思います。そして、そうした人材育成や組織化を実現する上での絶対条件として、「標準化」が必要だと私は考えています。

製造業などでは、工場において工程管理を行い、最終的な不良品率などを数字として管理しています。多くの業種で、このように「プロセスを管理する」ということをやっているわけですが、保険業界においては気合や根性といった精神論や、パフォーマンスの高い個人の能力に依存する部分が多いように思います。

こうこうした状況において「標準化しよう」といっても、ファイリングのやり方など事務的な部分に限定されており、セールスの部分については、標準化しようという発想になりづらいのが実情でした。

保険セールスの現場では、よく「断られてからが勝負」などと言われますが、この言葉の前提には、「そもそも断られないようなセールスのやり方を教えられていない」という問題があるわけです。

しかし、保険のセールスプロセスを標準化すれば、各メンバーが「どの段階で詰まっているのか」「どの段階が得意もしくは苦手なのか」「どの段階の確率が悪いのか」が見える化されるようになります。

そして、プロセスを管理することで、最終的には「分母」が重要だということがわかってくるのです。例えば、毎日4件面談している募集人の面談数が5件になれば、確率的には10~20%程度増収することになります。そのため、極端な言い方になりますが、セールスプロセスを標準化できさえすれば、一定程度の増収を可能にする人材育成、組織化の仕組みづくりができるということでもあるのです。

よく誤解されるのですが、標準化は募集人の個性をなくすことではありません。あくまで最低限のクオリティを確保することにやっていることなので、セールスパーソンとしての個性は標準化ができたうえで、発揮してもらえればよいと思います。

社員を「早期に戦力化」させる研修の中身

▲ 徹底的な初期導入研修が必要だと語る宮宇地氏

―貴社では、別業界出身の人材が早期に活躍していると聞いています。専門性の高い保険という商品を扱う業界において、早期に中途採用人材が活躍できるようにするには、どうしたらよいのでしょうか?

宮宇地氏:初期導入教育が一番重要だと考えています。
例えば、未経験の新卒や別業界から来たメンバーについては3ヶ月間・500時間程度の研修プログラムを行い、その間は一切1人で営業には出さないようにしています。内容としては座学とOJTが半分ずつで、事務や事故の処理など様々なことを先輩社員と一緒に経験してもらうようになっています。
特に座学については、その多くが「代理店としてが、どうあるべきか」と「そこに自分が仕事としてどうかかわっていくべきか」というビジョンやカルチャーの内容になっています。

また、研修も先程お話した「標準化したセールスプロセス」に沿って行います。
「まず会社案内を徹底的にロールプレイングする」「スクリプトを覚えてトレーニングする」といった研修を受ければ、誰でもできるようになる内容になっています。これらに加えて、保険業界における、保険金額や特約の「設定の仕方」を学びます。そうやってお客様と迷わず話すことができるようになっていくのです。

それから3ヶ月経って1人で営業に出るようになるわけですが、この業界で成功するか否かは面談数に左右されます。例えば保険会社の研修生の8~9割は脱落しますが、成功した人間と脱落した人間の違いは「人に会えたかどうか」です。そのため、弊社では、一定程度担当替えを行うことで、
年間300件は面談ができる仕組みを用意しています。

そして、ある程度面談ができるようにしたうえで、組織学習という場を用意しています。これはチーム内でコミュニケーションを取り、ノウハウを共有できる仕組みです。先輩社員を交えて、PDCAを回せるようにして営業活動の振り返りを行い、今後挑戦したいことや、助けてもらいたいことを確認できる場を作っているのです。この組織学習を活用することで、何年か経験しないと身につかないような知識やノウハウを短期間で身に付けることができます

多くの会社において、「新人が公式に助けてくれ」と言える場があまり用意されていないように思います。その機会を「組織学習」という形で設定してあげることで、先輩社員との関係づくりもできるようになり、チームとしても機能しやすくなるのです。

また、この場では「あなたは何のために働くのか」「保険代理店とはどうあるべきか」といった問いかけも行います。我々は保険という、ある意味「公的な」商品を取り扱っているので、こうした社会的な役割についても時間を割いています。

さらに、私が重要だと考えているのは、多くの募集人がもっている「聞かれたことはその場で回答しなければならない」という思い込みから解放してあげることです。
顧客からの質問にその場で回答できなかったとしても「調べて後日ご連絡します」でよいのです。「お客様からの質問にすべて的確に答えられること」が専門性や商品知識だと思いがちですが、きちんと先輩に聞いたり、調べて後日連絡できれば問題ありません。

そして、再訪問をするスキルも徹底的に身に付けさせるようにしています。先ほど言ったように300件ほどの満期更改や損保関連の案件を担当させているので、契約者の方々に年間1200回、つまり1件当たり4回会いに行くことになります。そのためには、何度も何度も会いに行ける関係作りが重要になるのです。これを「再訪スキル」として重要視していることが、早期に活躍できる人材が育成できているポイントだと思います。

―こうした先輩とコミュニケーションがとりやすい、保険の社会的役割を考えるといった文化を社内で醸成するためには、どのような取り組みをしているのでしょうか?

宮宇地氏:
弊社の会社案内の中に「お役立ちの原点」という項目があります。そこには、「この仕事は人の役に立つことなんだ」というお客様へコミットメントをしている企業理念が書かれています。

そして、研修も「人は誰かの・何かの役に立つために、仕事をしているのであり、生きているのである」ということを理解してもらう目的で行っています。

さらに、こうした理念や考え方は、セールスの過程でお客様に何度も伝えてもらうようにしています。この「人に伝える」という行動を通じて、社員の心に浸透していくという仕組みになっているのです。つまり、弊社において「会社案内」というセールスプロセスは単なる会社の紹介ではなく、自分たちの理念を顧客に伝えるためのものであり、社員に理念を浸透させ、コミットメントさせるためのものでもあるのです。

そのためルールとして、例えば損害保険の毎年満期更改の訪問においても毎回、「会社案内」をやっています。仮に10年弊社とお付き合いしてお客様であれば10回、「会社案内」を聞いていただくことなっています。こうして理念を伝える中で、共感していただいたお客様が別のお客様を紹介してくださるといったことが自然発生的に起こっています。

単年度だけでなく、これまで蓄積された能力も評価する

―文化醸成を行っていく上では評価制度も重要なポイントだと思いますが、その点貴社ではどのような取り組みを行っているのでしょうか

宮宇地氏
こちらが実際の人事考課表です。

▲詳しい内容をご確認されたい方はhokanまでお問合せください。

営業職については、「職務能力」「取組姿勢」「成果」の大きく3つに分けて評価を行っています。職務能力において、一番重要視しているのは行動力で、取組姿勢においては計画性を重視しています。それぞれ最高点は40ポイントと30ポイントで、成果の最高点も30ポイントです。
そして、十分な行動量があり、計画的に仕事に取り組んで70ポイントあれば、仮に成果がゼロでも給料が下がらないようになっています。その上で多少感覚的になるのですがA.B.Cといった形でランク付けしていきます。1次評価者が各支店の支店長で、2次評価者が私になっています。

もう一つ重要なポイントとして、多くの代理店が単年度評価のみを行っているのに対し、弊社は等級評定を行っています。

これは入社以来、蓄積された能力の保有度を評価するものと設定しています。入社すると、1等級から始まり、A評価が2年続くと等級が2へとあがります。そして、2等級でA評価を3年続けると3になるという仕組みになっています。3等級以上は4年間、A評価が続かないといけないため、弊社では4等級以上でマネージャーになれる資格があるという形になっています。

このように入社以来の蓄積された能力の保有度を評価する制度と、単年度評価と掛け合わせて、単年度を評価給、等級を職能給という形で組み合わせて給与を決定しています。その上で、給与の上がり下がりの目安もわかるようになっていて、原則としてA評価で+10%、B評価で+5%、C評価で±0程度です。D評価ですと多少減額になる可能性もあります。

もう一つ、弊社では募集人ごとに担当事務員がいるのですが、成果の30ポイントについては事務員と共有する形になっています。そのため、事務方としっかりと連携を取ることが非常に重要になる仕組みになっているのです。

―貴社においては数字の目標についても個人ではなく、チーム単位でもっているとお聞きしましたが、詳しく教えていただきたいです

宮宇地氏:
目標予算は支店ごとに設定されているので、支店が一つのチームとして目標を追いかけていくことになります。個人の営業ノルマとしては設定していないので、チームとして如何に予算を達成するか、という点で評価しています。

そうすると、「個人の成長につながらないのではないか」という懸念も出てくるかもしれません。しかし、弊社では成功したメンバーがチーム力を高めるために、自身の成功事例やノウハウを積極的にチームメンバーに共有するといった動きが起きています。この背景には先程、お話した「組織学習」という社内の仕組みがあるのです。この共有化の仕組みによって、メンバーのボトムアップが進むようになっています。

能力は後から身に付けることが可能。人柄重視の採用基準

▲セミナーでは、宮宇地氏直筆によるチャートを使ってご説明していただきました。

―組織強化や文化醸成の仕組みについてはご説明いただきましたが、そもそもの採用については、どのような視点で行っているのでしょうか?

組織作りの原点は採用だと考えています。そのためには、明確な採用基準を定めることが重要です。例えば、弊社では民間の紹介会社に募集を出す際には、信金を含む銀行もしくは大手メーカーなどに勤務経験のある第2新卒といった方を紹介してもらうようにしています。

その上で、採用面接の際の見極めは以下のように考えています。

この図では縦軸に能力、横軸に人柄を取っています。横軸は「人柄が悪い」ということはないので、「人柄が良い」の反対として「押しが強い」という形にしています。多くの企業において、「押しが強くて能力が低い人」は採用しないでしょう。一般的に求められるのは、「人柄が良くて能力の高い人」だと思いますが、そんな人は金融機関にいません。私を含めて保険業界にも証券業界も銀行業界にもいないでしょう。

なので、「押しが強くて能力が高い人」もしくは「人柄は良いけれど能力はそれほどでもない人」を採用するしかないわけですが、一般的に人柄を変えるのは困難です。しかし、能力は学習させれば身に付けることができる。

弊社では、これまでお話してきたようにセールスプロセスを標準化していますので、
「人柄がよく、トレースする能力がある人」であれば、必ず「人柄がよく能力が高い人」になれると考えて、基準を設定し、人柄重視で採用を行っています。

そして、何より重要なことは、こうした教育予算をしっかりと確保することです。

私はよく他の代理店の決算書を見るのですが、勘定科目に教育的な予算が含まれていない場合が多いのです。やはり、お金をかけなければ標準化も文化醸成もできません。予算をしっかりと確保して、「そこにお金を使う」という意思表示を明確にすることが重要だと思います。

質疑応答編:代理店ではトップ自ら教育を担当すべき

▲こたえきれないほどの質疑応答が寄せら、一つひとつに丁寧にお答えいただきました。

Q:初期の導入教育については、誰が担当しているのでしょうか?

A:弊社は50人ほどの組織ですが、非生産部門となる教育担当を1人置いています。
そこまでできなかったとしても、代理店においては、店主が自ら教育を担当すべきだと思います。その代理店で一番優秀な人は店主でしょうし、そうやって店主自らがプレーヤーを外れることが組織化の第一歩だと思います。自分がいくら働いても1馬力ですが、自分の分身を5人育てれば5馬力になるので、店主自身が教育を行うべきだと思います。

Q:支店長の一次評価の基準はどのように統一されましたか?

A:人事評価の手引きを作成して、やり方をマニュアル化しています。多少個人的なバラツキはあるかもしれませんが、評価の仕方についても一定の標準化が進んでいます。

Q:お答えしづらいかもしれませんが、更改契約300件をお渡しする中で1年目の給与はどの程度なのでしょうか?

A:全国各県の県庁ホームページの労働局の項目に、全業種平均の年齢別の報酬額が掲載されています。弊社は、その報酬額+20%が初任給です。

Q:行動量や営業計画、目標などはどのように設定しているのでしょうか?

A:弊社は損害保険がベースなので、会社案内や情報提供を行う「有効面談」を1日5件、月100件、年間1200件というのがベース件数になっています。弊社内における確率から言うと情報提供したお客様が1年以内に契約になる確率が14.3%あるので、1200件に合えば170件の新規が出てくるという計算になります。ですから、こうした面談の分母が増えれば、新規もおのずと増えていくということになります。

Q:1日5件というのは、どのように設定されたのでしょうか?

A:1面談平均50分と考えて、移動時間などを踏まえて計算すると7時間の労働時間の中での最大値というイメージです。

Q:一番大きな支店では、募集人、事務方含めて何名程度いるのでしょうか?

A:事務方1人に対して営業2人といった形なので、多くても10人程度です。

Q:保険会社からは短期的な成果を求められることが多いと思いますが、人事考課の中で長期的な部分とのバランスは社内でどうやってとっているのでしょうか?

A:弊社のような仕組みで営業をしていると、「2桁増収」といった爆発的な成長にはつながりにくいものの毎年数%ずつ淡々と成果が積みあがっていきます。なので、保険会社のために短期的な利益を目指すというよりも長期的に利益を積み上げていくということを重視しています。

Q:支店ごとに目標を設定するとのことですが、支店長の負担が重すぎてしまうということはないのでしょうか?

A:もちろん、プレイングマネージャーとなるため、負担は一般プレーヤーと比較すれば重くなります。ただ、その分報酬も高くしていることで理解してもらっていると思います。また、最近ではhokanを導入したことで、マネージャーの工数が減少していますね。

Q:支店の予算については何を基準に決めているのでしょうか?

A:過去実績、メンバーの増減など支店の状況、中期の経営計画といった要素を総合的に勘案して決めています。

Q:採用基準における「能力」とは、具体的にどのようなものを想定されているのでしょうか?

A:営業であれば、営業力です。営業のためのコミュニケーションスキルなどをイメージしてもらえればと思います。

Q:再訪スキルと同様に新規開拓も重要だと考えれば、そのためのスキルはどのように身につけさせているのか。

A:弊社の新規の8割は紹介と他種目です。そのため、完全な新規開拓ではなく、今いるお客様の中から増やしているという形です。

Q:「面談」が有効かどうかは、何を基準に判断しているのでしょうか?

A:チェック項目は「会社指定の情報提供ツールで情報提供をしたか」「会社案内をしたのか」の2つだけです。このどちらかをしていれば、「有効面談」としています。

Q:事務の方々の人事考課において、単年度評価の成果については、何を基準にしているのでしょうか?

A:これは仕事に対する姿勢が40ポイント、事務的なスキルが30ポイント、残り30ポイントが営業と共有した成果に割り振られています。

Q:保険ネットワークセンターの損保と生保の割合はどの程度でしょうか?

A:損保が52%、生保と第3分野で48%程度です。

Q:お客様の声など、顧客からのフィードバックについては社内でどのような方法・ツールで収集・共有されているのでしょうか。

A:お客様の声については、クレームとお褒めの言葉どちらも必ず毎日、支店単位でまとめて報告するように義務付けています。仮に、お客様の声がなければ、「今日はお客様の声がありませんでした」という報告をするようにしてもらっています。そして、それをメーリングリストで全社に共有することになっています。

Q:事故対応の標準化については、どのようなイメージで行っているのでしょうか?

A:事故の報告書は、全社共通で社内で作成したフォーマットを利用することになっています。また事故対応のマニュアルもあり、案件ごとに通し番号も付けてファイリングし、処理・未処理を管理しています。hokanのプロジェクト機能内の「事故処理」というステージリストで順番に管理できるようにしていますね。

Q:ペーパーレス化への取り組みについて教えてください。訪問記録や意向把握確認、個人情報の同意、販社確認、申し込み設計書などは書面では残していますか。

A: 重要事項説明については、チェックシートを作成して紙で残しています。また個人情報については持ち出し管理を含めて徹底的にやっています。情報を一つ持ち出すにしても、すべて事務方のチェックが入りますし、家に耐火金庫がない人間は、個人情報を持った直行・直帰を禁止しています。

また、重要事項を説明したかどうかを無作為で調査された場合、説明したにも関わらずお客様が忘れているというケースも考えられます。「そんなの聞いたかな」と言われてしまうと、我々にとっては致命傷になるので、保険会社に提出資料とは別に「重要事項を説明した」というチェックシートを紙で制作しています。


※本レポートは2022年7月27日開催のセミナーの内容となります。アーカイブにて動画配信をしておりますので、ご覧なりたい方は以下よりご確認ください。

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セミナー登壇者:宮宇地 覚氏

有限会社保険ネットワークセンター代表取締役
香川県損害保険代理業協会 常務理事
多くの代理店が参考にしている標準化されたアプローチ手法「循環型セールス・プロセス」を確立。これまでも全国でセミナーに登壇し、生き残る代理店の経営モデルとして業界でも認知を得る。過去には7年間で手数料収入を10倍達成するなど、大変革において着実な業績拡大を実現。2020年度も過去最高益を記録。著書:「保険代理店ビジネス43の常識」「次世代代理店の経営モデル」「変化を乗り切る保険代理店経営」